アメリカの伝説的なブーツメーカーの話

アメリカの伝説的なブーツメーカーの話


2022年 08月 25日

仕事でよくオレゴン州ポートランドによく行くのですが、10年以上も定期的にパシフィック・ノースウェストに通い、さらに趣味のマウンテンバイクで山の中を走ることでアメリカのナショナルパークやトレイル、ランバージャックの文化に興味を持つに至ったのですが、その一つの象徴が頑丈なブーツです。

ポートランドの中古アウトドアギアショップの非売品コーナー。米国森林局のジャケットは憧れです。

VANSがカリフォルニアが象徴するなら、ワシントンやオレゴンを象徴するのはブーツです。フレームビルダーなど物作りをしている人は年期の入ったブーツを履いた人がとても多いです。今年、偶然にもパシフィック・ノースウェストの伝説的ブーツメーカー4社を訪れるチャンスがあったので、せっかっくなので誰得とうっすら思いながらもレポートしたいと思います。

説明不要ダナーです。先述のVANSを日本国内で独占的に販売するABCマートが子会社に納めているのは有名な話ですが、そのおかげで最近は2万円でベトナム製のダナーライトが買えます。ポートランド国際空港の近所にこのような比較的大きなアウトレットがあります。アウトレットとは言え、プロパーのモデルも置いてあるのでアウレット品の置いてあるショールームとも言えそうです。

アメリカ人はアメリカ製のものにプライドを持っており、特にオレゴンは今でも白人社会なのでその傾向が強いのですが、このようにアメリカで作っているプロダクツをダナー製品以外にも置いており、そのキュレーションが面白いので毎回その辺りを子細にチェックしてしまいます。

日本ではレジェンド扱い、もはや神格化されているホワイツもABCマートの子会社なので、実はひっそりと置いてあります。たまにセールで凄い価格になっているので、サイズがあればラッキーです。ダナーはポートランドのダウンタウンにも店を持っており、そちらもなかなかお洒落な品揃えです。

やはりダナーはいかにも大企業という感じがしますし、日本企業がオーナーとは言え米軍のコントラクターとしてUSMCのブーツなども納入していますし、ファミリービジネスに収まらない懐の広さを感じます。

こちらも日本ではホワイツと同じくらい神格化されているウェスコ。かつてはポートランド市内に構えていたのですが、大恐慌後の1931年にビジネスを立て直すためポートランドから北にクルマで30分ほどのスキャプーゼという田舎町に移しています。Google Mapsに従って運転していると、こんな所曲がらせるの?という静かな住宅地にあります。小さいながらもショールームがあるのですが、あまりカスタマーを直接迎える想定はしていないようで、昔からメールオーダーの普及していたアメリカの製造業らしい感じです。

ショールームからガラス越しにブーツの製造現場を見る事ができるのですが、アメリカの製造業の現場で、このようにメキシコ人でもなくアジア人でもなく、 コケイジャン(白人)が実際に手を動かして働いているを見ると感動してしまいます。また、実働している機械の年期の入り方を見るとさすが創業100年を迎えたブランドだけあります。

今でも林業に関わる人(ロガー)や消防士などのプロフェッショナルにブーツを提供しているのですが、最近では古き良きアメリカの息吹を今でも感じさせるブランドとしてファッション方面からも再注目されており、アメリカ国外のブランドとコラボレーションするなどビジネスは順調な感じがしますが、本社を見る限り、至って地味で浮ついた感じが一切無いのがまた良いです。

こちらはワシントン州でもほぼアイダホ州に近い東側に位置するスポーカンのニックスです。元々はホワイツで働いていた人物が独立したブランドだそうで、ブーツのラインナップもかなりホワイツに近いです。ソーシャルに力を入れており、面白いカラーウェイのブーツを手掛けるなど、IGでの発信も活発で、どちらかと言うとホワイツよりもニックスの方に興味があって訪問してみたのですが、これは僕の正直な印象ですがブランドへの興味は消えてしまいました。

まず、ショールームが汚い。汚いというよりかは散らかっていて、客が試着したようなブーツや箱が転がっており、さらに入って右の部屋にはアウトレット品が置いてあるのですが、その雑然さにブーツを選ぶ気さえなくなってしまいました。少なくとも、$500〜$600のブーツを販売するようなハイブランドとは言えないと思います。ソーシャルの上に築かれた空中楼蘭だったのでしょうか?

ニックスから比較的近い場所にホワイツがあります。独立記念日が近かったのでセールをしており、チャッカとオットーダービーというモデルが安いとのこと。これは期待です。

こんな店構えです。駐車場には多くのクルマが止まっており、写真のダッジもクルーキャブですが、アメリカでは高級な乗用車みたいなものです。店内に入って驚いたのですが、老若男女多くの客がブーツを試着したり店員と相談するなど多くの人で溢れており、さらにブーツメーカーというよりはメイン州ポートランドのLLビーン本店を思わせるようなアウトドアショップと言える品揃えで、ワークウェアやハンティングウェアも取り揃えていました。

参考までにLLビーン本店は桁違いの大きさです。

もちろんホワイツのブーツを買おうと物色してみたのですが、独立記念日セールのモデル以外は完全に定価で、日本で買うより遙かに安いとはいえ恐ろしい値段で、一角にアウトレットと中古ブーツのコーナーがあったので物色してみたのですが、その中古ブーツの高さにも驚きました。ニックスなら新品の買える価格です。ポルシェやフェラーリ、ROLEXがそうですが、中古マーケットが安定して高いのは一流ブランドの証です。ホワイツはバリバリの一流企業だったのです。そしてホワイツ愛が深まったのは言うまでもありません。

このように、4つのブランドは全てパシフィック・ノースウェスト(太平洋岸北西部)に所在するのですが、ルーツはそれぞれ違います。ウェスコはミシガン州から移住した靴職人が1918年に創業、ホワイツはウェストバージニア州からアイダホ州をはさんで1915年にスポーカンに移転、ニックスは1964年に同じくスポーカンで創業、ダナーは1932年にウィスコンシン州で創業して1936年にポートランドへ移転しています。

ホワイツから独立したニックス以外は1900年代前半に集中していますが、これはゴールドラッシュが終焉を迎え、大陸横断鉄道がオレゴン・トレイルに置き換えられたことにより東部からの移動が容易になり、爆発的にシアトル、ポートランドが拡大してロガーなどの労働者からブーツの需用が増えたことが理由です。

以上、伝説的なパシフィック・ノースウェストの4つのブーツメーカーを訪問した話でした。西部開拓時代の残り火を微かに感じさせる昔ながらのブーツは足を入れる度にスニーカーとはまた違った気分にさせてくれます。

ブログに戻る

コメントを残す

コメントは公開前に承認される必要があることにご注意ください。