投稿日 2024/08/07
こちらは2019年4月に産経デジタルが運営していた総合自転車情報ポータルサイト「Cyclist」に寄稿したものです。Cyclistが2021年3月に終了して記事が失われてしまったので、こちらに転載します。最後の部分だけ加筆しています。
ニュージーランドの人口は約480万人、その面積はおおよそ日本から北海道と四国を抜いた広さで、福岡県の人口が510万人なので人口密度は日本の1/20です。
近年ニュージーランドは世界的にマウンテンバイクの名所として世界中からMTBerが訪れる土地となっており、XCO選手では絶対王者ニノ・シュルターをゴールスプリントで下して世界に衝撃を与えたサム・ゲイズ、エリートにステップアップしたアントン・クーパーなどが現役ですが、ゼロ年代にはバネッサ・クインが2004年にダウンヒル世界選手権を制覇するなどグラビティ系の名選手も輩出しています。
最近ではクランクワークス・ロトルアが開催され、今年からUCIと提携したENDUROの世界シリーズであるEWSがロトルアで開幕するなど世界規模のMTBイベントが多く開催されるようになりました。
しかし、ニュージーランドのMTBレーシングだけを見てその全体像を語ることはできません。これには政府の投資が深く関わっています。まず2009年にナショナル・サイクルウェイ・ファンドがニュージーランド・サイクル・トレイルの伸張のため40億円、さらに地域社会から25億円の出資を受けて設立されました。ニュージーランドの国土、自然環境、文化、歴史をよく伝え、高品質なツーリズムによって国内外から人を集め、そして、地域の雇用と経済を創出し、ニュージーランド人のレクリエーションと健康のために寄与するというものです。
現在は2012年設立のMBIE(企業・技術革新・雇用省)がニュージーランド・サイクル・トレイルを管轄し、2016年には追加の20億円を政府から得ており、既に22のトレイルを1.3億人が訪れ、2015年の経済効果は30億円という成果を上げています。
さて、以前からニュージーランドでMTBライドするチャンスを窺っていた筆者ですが、3月中旬に関空〜オークランドのニュージーランド航空が89,910円という衝撃プライスなのを発見、即予約して3月14日、オークランドに降り立ちました。
欧米と違い、21時関空発で機内で寝て起きるとオークランドでは翌日の12時で、時差もわずか4時間なので身体的にも非常に楽です。また、予約した激安レンタカーは日本から輸出された右ハンドルのトヨタ・エスティマで、見た目はくたびれていても走りは快調、日本と同じ左側通行なので海外での運転に慣れていない方でもストレスは少ないと思います。
オークランドから今回ベースとしたロトルアまでは3時間ほどのドライブで到着、早速バイクを組み立ててからダウンタウンまでビールを呑みに行き、翌日に備えます。
22あるニュージーランド・サイクル・トレイルのうち10は北島にあり、その中でもティンバー・トレイルは85kmを誇るワンウェイのトレイルで、ニュージーランドの中でもベストトレイルの一つとして名高いのですが、ループではなくワンウェイなのでシャトルサービスが必要で、これがたった4,000円です。事前にトレイルの終着地点のオンガルエにあるエピック・サイクルアドベンチャー社にシャトルバスを予約しました。8時半に来るよう指示を受けたのでロトルアを6時に出て2時間のドライブで到着しますが、慌ただしくバイクをトレーラーに積み替えると8時半を待たずに出発、ドライバーはとんでもなくぶっ飛ばすのであっという間にスタート地点のプレオラビレッジに到着します。
走り出して分かったのですが、ティンバー・トレイルは恐ろしく投資を受けて整備されており、1kmごとにある標識や分岐を示すサイン、そしてグラベルバイクでもたやすく走れるであろう、極めてスムーズな路面、水の管理が徹底されているので、ある程度の降雨直後でもトレイルに轍が残らないため、ほぼ年間を通して走れると思われます。
そして見所は自転車とハイカー専用の吊り橋です。日本であれば降車して押しなさい、と看板が立っているでしょうが、そんなケチケチしたことは言いません。中間地点にはロッジとキャンプサイトがあり、多くの人はキャンプしながら走るようです。
後半はティンバー・トラムという鉄道の線路跡を走るため道幅が広くなりますが、最後の10kmには絶景で右側が崖のシングルトラックを下ってゴールです。筆者で5時間半ほどで85kmを走破できました。おそらくある程度の経験者であれば1日で走ることは簡単なのですが、携帯電話の電波はほぼ入らないのと、補給できる所も中間のロッジ以外はありませんので、甘く見てはいけません。ロッジから後半のみを走る人も多いそうです。
翌日はマンガプルア・トラックを走ります。前日の疲れを残しながら早朝に起床し、5時にロトルアを出発して7時半にライティヒ・ホリデー・パークに到着、ここでバイクをトレーラーに積み込んで1時間以上バスに揺られるのですが、最後の10kmはとんでもなく細いグラベルをほとんど暴走し、ようやくトレイルヘッドに到着します。
マンガプルア・トラックは距離35kmで最初獲得標高で320mほどダブルトラックを登り、6kmほど平地基調で後はほぼ緩い下りというコースプロフィールで、前日の85kmに比べてイージーだろうと思っていたのですが、これが大間違いで、ティンバー・トレイルに比べて全体的に路面が荒れており、そして雨の影響でマッドになっている所も多く、最後の10kmはシングルトラックになるのですが谷側は崩れている所や、柵やガードレールも無い絶壁の上を走るルートなどアドベンチャー度はかなり高かったです。
最後は川沿いの船着き場にゴールするのですが、ここからバイクごとシボレーのスモールブロック搭載のジェットボートで40分ほどピピリキまで運ばれ、さらに迎えのハイエースで朝のホリデー・パークまで戻り、ドロドロになったバイクを洗わせてもらって1万円少しなので、格安としか言いようがありません。
ロトルアには3泊したのですが有名なロトルアのトレイルシステムを走らず、そのままオークランドに戻ってしまったのが悔やまれます。この後、オークランド近郊にあるフォーフォーティMTBパークも走ってきました。リフトの替わりに山頂までバスでピックアップしてくれるMTBパークで、6回券を約4,000円で買って走ったのですがトレイルと違い、専用のパークならではの作り込まれたハイスピードなコースに文字通り衝撃を受けます。
翌日にはニュージーランド第4の都市ハミルトンのダウンタウンからほど近い工業団地内の小さな森に設計された無料で走れるハミルトン・マウンテン・バイク・パークを走ったのですが、小さな公園の中に緻密に作り込まれたトレイルに感動します。
せっかくなのでキャンプも。
1週間の滞在で5回のライドをしたのですが、実質移動日以外は毎日乗ったことになります。ニュージーランドのMTBトレイルに触れて感じたのは、ニュージーランド・サイクル・トレイルのような大都市から離れた場所にあるロングトレイルから、グラビティ系ライダーを満足させるMTBパーク、街から近い場所にある箱庭のようなMTBパークまで、ありとあらゆるタイプのトレイルが存在するということです。
福岡県より少ない人口ながらも、世界のトップレベルで戦えるMTB選手を輩出しているのは、この素晴らしいMTB環境の下支えがあるからでしょう。次回はクイーンズタウンを擁する南島へのトリップを予定していますが、その際にはヘリバイクに挑戦したいと思います。文字通り、ヘリにMTBを積んでトレイルヘッドの起点まで行き、そこからほぼ下りのみを楽しむスタイルなのですが、確かにそこそこ費用は必要ですが非現実的な価格ではありません。
例えばこのプランはクイーンズタウンから近いBen Cruachanという山のピークから下る4時間のプランで、価格はNZ$629なので約55,000円です。一生の思い出になるライドになると思うので逆に安いのではという気さえします。この山系にあるリマーカブルスというスキー場にはずいぶん昔にスノーボードで滑ったことがあるので懐かしいです。
もしヘリバイクをやりたいという方がいるなら、ぜひ一緒に行きましょう。会社によってはヘリの定員まできっちり乗ると頭割りが安くなる場合もあるのでお得になります。物価は決して安いとは言えないニュージーランドですが、ことMTBに関してはとても安く遊べると思います。先に述べたように、日本と同じ左側通行であったり、日本のクルマを安くレンタカーで借りれたり、なにより治安が良く、海外特有の難しさがありません。しかし、逆に言うと海外にいるという感じが希薄で少し物足りない部分あるのも確かです。
しかし、いきなりウィスラーやヨーロッパに行くよりはハードルが低く、コストも安いので最初の海外MTBライドにニュージーランドを選ぶのはとてもおすすめです。タイヤを新品にするのをお忘れなく。