リムブレーキの終わり

リムブレーキの終わり


2024年 02月 28日

twitter(現X)でかなり盛り上がっていたので、僕も考えてみました。最近のロードバイクはなぜここまで高価なのでしょうか?

私は今の話をしているんだよ

簡単に言うと、空力を追求したせいです。1989年のツール・ド・フランスでグレッグ・レモンがローラン・フィニオンを最終ステージで破ってから、空力を笑う人はいません。最近は選手の快適性を無視したり、バイクの重量、操作性すら無視して空力を追求するのが当たり前になったのですが、これには多大なコストが掛かります。どれくらいヤバいのかというと、F1は空力開発時間が厳しく制限、管理されており、速いチームほど風洞試験時間が少なくなります。

つまり、上限を設けないと資金力のあるチームが風洞試験を重ねて速いクルマを作ってしまい、チーム格差が広がってレースとしてエンタメ性が失われてしまうからです。今でさえRed Bull一強の構図でF1への興味が失われつつあると言われているくらいなので、ある程度の公平性は担保される必要があるのです。

さて、ロードレースはというと、UCIが風洞試験時間に制限を設けてはいません。なので、自転車メーカーは風洞でバイクそのものの空力を存分に、上限なくテストすることができるし、選手は最も空力とパワーのバランスを良いポイントを追い込むことができるのです。ベルギーの若き天才、ITTスペシャリストのレムコ・エヴェネプールはその恩恵を受けている選手の一人で、スペシャライズドなどスポンサーの豊富な資金力でポジションの追求を徹底的に行い、昨年は世界選手権でITTでタイトルを獲得していますが、本人が最も誇れる勝利だと語っていました。それくらい、ITTは事前の準備が重要で、勝つのが難しい種目なのです。

その百分の一がお前を変えたんだ

今年の1月にはミラノにある大学の風洞実験設備でカステリの技術スタッフと共にテストを行っており、2月17日にはいきなりポルトガルのステージレースで総合優勝しています。ITTのステージではなんと2位に16秒差で圧勝しているのですが、山頂フィニッシュのステージでライバルから16秒を奪うのは困難ながらも、ITTであれば分単位の差が生まれることがしばしばあります。多くのグランツール勝者がTT巧者であったのもうなずけます。

なので、最新のディスクロードを横から見てください。風洞実験の結果、ドロップシートステイの、ほぼ同じようなフレームにデザインが収斂しています。もちろん、ブランドによってはアイデンティティがあり、非主流のデザインを貫き通す所もありますが、成績が出ているのかというとなかなか難しい所です。最近ではAG2RがBMCからスイッチしたデカトロンのオリジナルブランド、Van Ryselには驚かされました。いきなりUAEツアーで勝ってしまったのです。このバイクも、いかにも風洞で回したんだろうなぁというデザインに、エアロスペシャリストであるスイスサイドのホイールが組み合わせられています。

ここまで読み進めてもらうと分かると思いますが、ランスの時代とは違って、バイクの開発に空力というコストが乗ってしまいました。そこにはより高価なカーボンファイバー製ホイールの開発も含まれます。今の時代、フレームとホイールはペアで開発されるもので、不可分です。このせいで、MAVICを筆頭とするホイールブランドが苦境に陥っているのですが、ENVEは逆にフレームの開発に乗り出して、生き残りを図っているように見えます。

もちろん、ディスクロードはディスクブレーキと電動変速がセットなので、さらに高価なコンポーネントのコスト、そこに為替、原材料費の高騰が追い打ちを掛け、ますます車体としての価格が上がっているのが今の状況です。

クルマの世界も同じだと思うのですが、昔はミウラ、959、F40がスーパーカーと呼ばれていました。その後、マクラーレン・F1、ブガッティー・ヴェイロン、パガーニ・ゾンダのようなハイパーカーと呼ばれる、性能でも価格でもさらに突き抜けたものを持つカテゴリーのクルマが登場しました。つまり、200万円のロードバイクはクルマでいう数億円するハイパーカーに相当する乗り物で、今までのロードバイクとは違うカテゴリーが新たに創出されたと考えるべきでしょう。なので、我々庶民が買えないのは当たり前なのです。

 

庶民でもギリ買えるスーパーカーとして有名なCANYONですが、80万円で買った車体に50万円のホイール入れているので、決して安くはありません。この1年半でかなり乗ったので、最新の空力追求型ディスクロードについてはある程度語ることができます。

まず、ランニングコストが鬼安いです。そもそも現代のロードバイクは買った瞬間に完成しているので、交換するパーツがサドルとバーテープくらいしかありません。カスタムを加えようと思うなら、ポガチャルみたいにCarbon-Tiのローターは気になりますが、最も完成度が高いのはシマノ純正です。見た目が良かったり軽いローターはマーケットにありますが、効きが良くてもパッドの減りが早かったり、ローターのフレが出るのが早かったり、チャートの五角形がどこか突き抜けた分、失っている所もあります。

Di2なのでケーブル類の消耗がなく、「最近変速がちょっと悪い」というイライラから開放されるのがこれほどまで楽とは思いませんでした。とにかくローメンテナンスです。ブレーキフルードの交換も、この世代のシマノは非常に簡単で、タイヤ交換するよりは心理的障壁は低いです。たしか、フルードは前後共に2回入れ替えていて、ブレーキパッドはリアだけ1度交換、チェーンとカセットはほぼ新車状態の時にそれぞれDAグレードと30T⇒34Tへ交換しているので、交換していないに等しいです。

 そして、これが一番大きいのですが、ディスクロードになってホイールのリム面が摩耗しない。リムブレーキならブレーキレバーを引く度にリム面が削られて数円ずつ価値が毀損していき、最後はホイールとして使えなくなるのですが、今使っているENVE SES 4.5は購入してから1度も振れ取りすらしていません。かつて、シクロクロスでENVEをカンチブレーキで使用して、そのシーズンは泥レースが多かったので1シーズンでリム面が割れてしまったことがあります。しかし、現代のディスクブレーキ用ホイールはほぼ永遠に使えます。

とにかくディスクロードはすごいのですが、裏返すと、完成度が高すぎるのでサードパーティーが参入する余地が少なく、ホイールブランドを筆頭にコクピット周りなど、コンポーネントメーカーは冬の時代です。例えばTREKならボントレガー、ジャイアントならCADEX、スペシャライズドならS-Works、サーヴェロならリザーブのホイールで最高性能が出るよう設計されており、ビジネスの観点でもそれが正しいのでしょう。そういえば、CANYONはホイールのオリジナルブランドを持っていないので、近いうちに参入するのではないでしょうか。

人生ってのは衰えてからのほうが案外長いもんさ 

乗り物としてのディスクロードはどうなのでしょうか?

このtweetで全て説明されてしまっていますが、今の僕のフィジカルはStravaによると一番トレーニングらしきものを行っていた2015年よりFTPが70Wほど低いです。それでも、エアロードに乗ってちょっと真面目に踏むと河川敷の直線や、高速の下りセグメントでは自己ベストがすぐに出ます。特に下りは本当にスピードが出るので、あまり踏まないようにして自重しているくらいです。

もちろん、FTPが大幅に低下しているので、登りセグメントで自己ベスト更新は望むべくもないのですが、僕のライドは基本的に斜度のキツい、インナーを延々と使うようなルートは選択しません。あの富士ヒルクライムでさえ、6.8kgのリムブレーキよりも、7.4kgのディスクロードが有利というのが定説になっており、現在の上位入賞者は圧倒的にディスクロードに乗ります。

なので、平地と下りが十分に速く走れるので、登りでの遅さは十分にカバーされてしまい、トータルではリムブレーキ時代よりも長距離を走ると速く走れる上に、疲れが少ないです。SES 4.5に組み合わせた28Cや30CのTLRは本当に素晴らしく、腰にダメージが蓄積されない上によくグリップするので、長く走れば走るほどその良さが身にしみます。あくまでも感覚的なものですが、23Cのリムブレーキで120km走った疲れと、30Cのエアロードで200km走った疲れは同程度です。

必死に積み上げてきたものは決して裏切りません

もちろん、これはバイクだけの恩恵ではなく、空力を高めたタイトフィットなウェア、ヘルメット、シューズなど全ての細かなマージナルゲイン、本当に小さな積み上げが最終的にはトータルで数十Wを削減しているのです。

なので、最近はロードバイクが楽しいです。フィジカルの衰えたおじさんほど乗れば恩恵があるし、元気な若者なら無限にトレーニングが積めるかと思います。リムブレーキのバイクを酷使するとワイヤー類やホイールの消耗が早くてランニングコストがかさみますが、ディスクロードなら定期的に変速系とパワーメーターを充電するだけです。

“いつか”なんて時は私たちの人生には存在しない

僕が語るまでもなく、ディスクロードが良いのは当たり前です。では、我々消費者はどのように行動すればいいのでしょうか。新車は高すぎて買えない、かと言ってリムブレーキは今後ますます選択肢が少なくなるというジレンマがあります。これは歴史が証明していますが、MTBにおけるサスペンションやディスクブレーキと同じで、最初は否定する声があっても、あっという間に切り替わります。シクロクロスだって一瞬でディスクになりました。それくらい良いのです。なので、遅かれ早かれディスクになります。「いつ」乗り換えるのかというだけの話にすぎません。

業界は景気が悪いです。メーカーや問屋の倉庫に在庫が積み上がっています。今年一杯は在庫レベルが高いと言われています。なので、twitter(現X)のTLを見ていると、大手チェーンストアが信じられないようなセールしているのをしばしば見ます。景気が悪いからこそのセール価格です。今が買い時かと思います。2025年に正常化すると、そんな極端なセールもなくなり、かと言って為替が動いて定価が安くなることも期待できないでしょう。

もちろん、RedやDura Aceがモデルチェンジされるタイミングでもいいと思うし、その頃にはハイパーカーのテクノロジーがミドルレンジまで降りてきて、もう少し買いやすくなっている可能性もあります。いつの時代も最新は最良なので。

最後に一つアドバイスですが、僕自身リムブレーキの機材はコロナ禍で暇な時、全てバラして手放してしまいました。驚いたのですが、手間を惜しまなければ、結構な値が付きます。長年乗っている方はガレージや納屋に多くのバイクやホイールが化石のように堆積していると思うので、全て処分すると塵も積もれば結構な金額なります。リムブレーキの新車が絶滅寸前なので、価値が上がってきているのです。

人はどうでもいいことに命を懸けない 

ロードバイクだって立派なスポーツ機材で、そもそもが公道を走る乗り物です。安全に楽しむにはこのタイミングで一気に更新するはどうでしょうか。

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19件のコメント

自転車販売店で勤めていますが、ディスクブレーキの高額ロードバイクは殆ど売れていません。特にクロスバイク分野では学生が多く乗り方も荒い為、ディスクブレーキをおすすめする訳にもいきません。
メーカー側の都合でディスク移行しているのでしょうが、ユーザー側が求めているものではないので現場の状況も踏まえるとリムブレーキ仕様は意外とこの先増えるのではと予想しています。
ディスクブレーキ寄りにはなると思いますが、市場はディスク7:リム3くらいで落ち着いてくるのではないかと予想しています。

オバQ

結局、ディスクを売りたいためだけの記事にしか感じない。ディスクロードが底値?去年から値上げラッシュでは?開発費がかかったからとか言い訳するんだろうなぁ。

ディスク太郎

最新エアロバイクの素人が旧型リムのプロに敵わない、なんてことを言う人がいるが、比べる相手を間違えている。

趣味で乗ってる人間なんだから、自分自身で比較するのが妥当だと思うがどうだろう。

やまだ

リムブレーキは終わらない。
ディスクより構造がシンプルで軽く安価に作れるから。
リム、ディスク両方乗ってますがリムバイクは軽快でシャキシャキ走れて30cTLRタイヤ履けば乗り心地も良いいですよ。リム、ディスクどちらも長所、短所がありますね。

パーサ

シロートが最近エアロロードに乗ったところで、リムブレーキ車に乗った一流選手には全く歯が立たないし、足元にも及ばない(笑)

しょーえい

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